2。2 『蜘蛛巣城』と能楽表現
黒澤の代表作としての『蜘蛛巣城』は、シェイクスピアの戯曲『マクベス』を脚色し、日本の戦国 時代に置き換え、外国の古い文学に日本の特有な芸術形式をよく調和している、能楽の様式美を存分 に盛り込んだ。
『姿三四郎』、『虎の尾を踏む男たち』などの初期作品において、黒澤映画の能楽表現は、主に能楽 の化粧や装束を真似し、能楽の演技を構成する型、例えば、能を演ずる基本姿勢である「カマエ」と
「ハコビ」などを運用した。しかし、『蜘蛛巣城』は中期の作品として、能の音楽が取り入れられた り、「能舞台」が再現させられたりするなど、能楽の要素がさらに見られるようになる。具体的に検 討すれば、以下のように五つの面に分けて述べる。