2 『めぞん一刻』のあらすじ
日本人の恋愛観を研究するために、まず始めに分析対象である『めぞん一刻』とは何かについて論じていきたい。『めぞん一刻』とは、日本の漫画家高橋留美子先生原作の漫画であり、1980年代の恋愛漫画の金字塔として名高い作品である。物語は、非常的に古い木造アパート「一刻館」に新しい管理人として音無響子が来るところから始まり、そのアパートの5号室に住む主人公の浪人生の五代裕作は美しい彼女に恋をすることとなる。この物語は若い未亡人の管理人と年下の下宿人、ふたりの淡い恋愛模様を中心に、個性的な人々が揃う一刻館の賑やかな日常を描く。
響子は夫の音無総一郎を1年前に亡くし、まだ気持ちの整理がつかないでいた。一刻館の大家である総一朗のお父様が彼女にこの仕事を薦めたのは、少しでも寂しさが紛れればいいという配慮からであった。一刻館の住み込む管理人として働き始めた響子は、忙しい毎日を過ごす。
響子は裕作の気持ちをよく知りながらも、いつも素知らぬ態度で避けていた。それでありながら彼がガールフレンドと親密にしているのを見聞するとつい、やきもちを焼いてしまう。他の住人たちはしょっちゅう冷やかして、裕作の部屋に押しかけては彼の恋路の一喜一憂を酒の肴に連日宴会で、騒ぎをする。そしてもう一人、響子はテニススクールで知り合ったコーチの三鷹瞬からも熱心なアプローチを受けるが、一向に答えは出そうにない。
歳月を重ねる中で彼らはそれぞれの岐路に立つ。大学を卒業し、就職浪人を経験した裕作は周囲の人達に助けられながら保育士を目指す。犬が苦手だった三鷹は犬が大好きの見合い相手、九条明日菜に惚れられ、ひょんな誤解が元で彼女にプロポーズするに至る。しばらく続いた裕作―響子―三鷹の三角関係だが、徐々に響子は自らの裕作への想いに素直に向き合おうとする。
ところが、それでも彼らの複雑な関係は続き、裕作とのもどかしい距離を縮めて素直に自分の気持ちを向き合おうと考えた響子は二人の関係をもっと深く発展させようと決意を決める。だが、裕作が響子の亡き夫を意識してしまったために不調に終わる。しかしながら、すでに二人ともお互いの気持ちが一致していると自覚する段階に到達していた。一刻館で二人きりとなったその晩、ついに結ばれて共に朝を迎えた裕作に対して、ようやく響子は本当にずっと好きだったことを告白した。
裕作との結婚を控えた時、響子は亡き夫の遺品を総一朗の父さんへ返すことにしたが、それは自分の気持ちを整理して、同時に祐作の気持ちを配慮するつもりである。遺品を返す報告として、響子は惣一郎の墓前へ行くが、そこには偶然に裕作もいた。惣一郎の墓前で裕作は、出会った時に既に響子は心に深く惣一郎を刻んでおり、そんな響子を自分が好きになった、だからそれゆえに、響子の惣一郎への想いも、全て含めてずっと響子を愛していくことを誓う。その裕作の言葉は付近にいる響子にも聞こえており、響子は裕作と出会えたことを亡き惣一郎は喜んでくれると確信する。改めて裕作の前に立った響子には、裕作と新しい人生を歩んでいくことに迷いは無かった。惣一郎の遺品について裕作は無理に返さなくても良いと言ってくれたのだが、響子は「いいの。……これでいいの。」と毅然と言い、惣一郎の墓前で改めて裕作との出会いに感謝するのであった。