バスの中で、いやな女の人を見た。襟のよごれた着物を着て、もじゃもじゃの赤い髪を櫛一本に巻きつけている、手も足もきたない、それに男か女か、わからない様な、むっとした赤黒い顔をしている。それに、ああ、胸がむかむかする。その女は、大きいおなかをしているのだ。ときどき、ひとりで、にやにや笑っている。雌鶏。(注6、p30)
同じ見掛けの悪い女だったが、今回は辛优尔どころか、悪优尔とも言えるほどだ。そして彼女は、「ああ、汚い、汚い。女は、いやだ。自分が女だけに、女の中にある不潔さが、よくわかって、歯ぎしりするほど、厭だ。金魚をいじってあとの、あのたまらない生臭さが、自分のからだ一ぱいにしみついているようで、洗っても洗っても、落ちないようで、こうして一日一日、自分も雌の体臭を発散させるようになって行くのかと思えば、また、思い当たることもあるので、いっそこのまま、少女のままに死にたくなる。」(注7、p39)