伊藤整の『谷崎潤一郎の文学』の中に指摘したように、「そういうモチーフの追求者の大なるものとして、多分、将来、谷崎潤一郎は、近代文学の範囲を超え、西鶴、紫式部などと比肩する存在として扱われることなるだろう。」 確かに谷崎潤一郎はエロチシズム主義、耽美主義、悪魔主義における代表的な作家として、東洋と西洋の文化を融合し、文学創作に大きな成果を得た作家であり、日本文学史及び世界文学史に重要な位置を占める作家であると言える。
本論文は先輩の研究に基づいて谷崎の創造過程をよりよい理解しようとする。『春琴抄』をめぐって、谷崎文学の特質を観察して、そうした美意識の顕現を人物性格の描写、物語の背景から解読してみる。
2、先行研究
日本における谷崎潤一郎文学の研究は盛んであり、谷崎潤一郎文学研究会が設立され、その研究が活発に行われ、谷崎潤一郎の作品についての研究成果は毎年数多く発表されている。『春琴抄』は谷崎潤一郎の最高の傑作の一つと言われ、それをめぐる研究は多い。主に、久泉田の『『春琴抄』の研究』(双文社出版1995年版)、三島佑一の『谷崎潤一郎:「春琴抄」謎』(人文書院1994年版)のものである。
中国における研究に章克標の『谷崎潤一郎集.序』、齐珮の『日本耽美派文学研究』(北京:中国社会科学出版社.2009)、彭德全の『试论谷崎潤一郎の美学観』(日本語勉強と研究.1992)、徐京安 赵灃の『唯美主义』(北京:中国人民出版社.1988)などがある。徐京安の『唯美主義』によって、「美の力のしたで無力で、こういう意での可哀想な人を、谷崎はずっとこういう人を書き続いた。」
中日両国は、谷崎润一郎に対する研究は数多く存在しているが、近代文学における谷崎润一郎の業績の探求を図り、またその読解を深めることも必要がある。
第一章 『春琴抄』について
1.1『春琴抄』の誕生と主題
1.1.1創作動機
世界の作家は谷崎潤一郎に限らず、大部分の芸術家は、作品を通して、社会に対して自分の価値観と欲望を表す。だから、谷崎潤一郎は諸作を書いた時に、きっと当時の社会や風俗の影響や自分の経歴もうけた。大震災以後、谷崎潤一郎は日本伝統文化が多く残っている関西に住み、日本の伝統的な文化に直面するにつれて、日本の陰翳な美意識を次第に悟って来た。『春琴抄』は幕末時代から取材して、春琴という誇り高い、美しい箱入り娘かつ盲目の琴の師匠についての作品である。
『春琴抄』が作られた時期は、谷崎潤一郎と松子の「情熱恋愛」の時期であった。『春琴抄』を創作中に、谷崎潤一郎は、主人公春琴の出身、生活、性格、言葉、佐助との恋愛までも、松子と母親のような伝統的な女性を標準として設計した。谷崎潤一郎は、伝統的な生活雰囲気に成長した松子と出会ってから、松子を手の届かぬ遥かな高嶺の花として仰ぎ続ける一方で、関西の女性、関西に色濃く残っている伝統的な文化に心を引き受けられるようになった。しかも、日本伝統的な女性をモデルとしての松子と母親への崇拝は、肉欲崇拝と肉体崇拝に留まらず、精神的な崇拝である。「崇拝する高貴な女性」のイメージから、「恋愛至上」をたて、「永遠性の女神」に至るのは、『春琴抄』の完成につれて、伝統的な女性への跪拝の高峰である。
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