現在、経済が急激に発展しているとともに各国の過労死の傾向も進行しており、早急に原因を明らかにしなければ、適切な対応もとれなく、すでに報じられている過労死問題が更に深刻になっていくことが予測される。
中日両国の過労死に関する研究に基づき、過労死の形成した原因を明らかにしていきたい。湖南財経高等専科学校の羅財喜氏は中国過労死の現状とこの現象が生じた原因を注目し、すでに社会原因、企業側、労働者自身、法律不健全などの理由が解明された (2008)1)。西南民族大学日本語学科の副教授王玲(2006)は「日本人の過労死及び日本の社会文化成因」の中に過労死と伝統文化の面とのかかわりを探究し、日本の過労死が生じた理由は企業文化と集団意識などに深くかかわっているということが明らかにした。日本の研究では、『日本国情縦横』などの本を中心に過労死が生じた背景と原因などを詳しく論じ、様々な原因も解明されつつある。
しかし、上記のように、過労死問題に関する研究は主に各国の現状や原因などに着目されてあり、中日両国の比較研究は十分に行われているとは言えない。各国の過労死問題が生じた原因によって、それぞれに対応する措置も違ってくる。また、比較するプロセスの中、お互いに経験を学ぶこともできる。それらの相違点を探し出すと、より適切な対応も取ることができる。筆者はそれを課題として研究する価値があると思う。
筆者はこの点を課題として、中日における過労死が生じたその国なりの原因などを明らかにし、実際にこの問題を解決することにも役立ちたいと考えている。
2.中日の過労死の背景及び現状
2.1日本過労死の背景及び現状
過労死の背景というと、日本の企業経営の変遷を述べる必要がある。19世紀末から20世紀初めにかけての産業発展の過程において、繊維産業などを中心に労働力不足とそれを補うための高い採用コストに企業が悩まされた結果として、企業側が従業員の定着を図るために終身雇用や年功制が採用されていた。しかし、1980年代から日本のバブル経済の長期不況が始まって以来、終身雇用制度も揺らぎ始めていた。企業では、高度経済成長を通じて高まった労働者の賃金水準がなく、より激しく企業間競争に対処するためには、相次いで「減量経営」が展開され、雇用調整の名のもと、大幅な人員解雇を中心としたコスト削減、「生産性向上」を目指す「合理化」が強化されるようになる。柚木理子(2006)は、バブル経済以降の雇用状況について、次のように述べている。
バブル崩壊以降、1990年代の終わりから雇用状況の悪化が著しく、リストラによる雇用不安、完全失業率の上昇、賃金の低下、男性正規雇用者の減少など、戦後の日本経済が経験したことなかった現象が21世紀に入り立て続けに起こり、昨今の日本の労働環境の悪化は目を見張るばかりである2)。
確かに、元々企業内部にいる人々の能力と忠誠心を最大限に引き出す機能を持っている終身制度がだんだん社員に精神的安定感も与えられなく、今その制度が根本から揺らいでいる。また近年、日本において不況により企業の雇用労働者の正社員の割合が減少しつつあるのに対し、パート、派遣社員、契約社員などの非正規社員は増える一方である。その結果、残った正社員にしわ寄せがきて長時間労働を強制されることも想像に難しくない。それに対し、非正規雇用者の働く機会が多く、正規雇用者と異なり立場が弱いだけに法外の労働を強制される場合もある。さらに米国式の個人能力主義がもてはやされてきたために、人々は仕事に自己の生きがいや存在感を見出すという意識も心身のストレスに一層拍車をかけることになる。過労死の傾向もより厳しく経済環境と企業職場の中で進行している。