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    1.1先行研究

    吉田松陰は明治から現代まで多くの領域で活用された人物である。日本では、吉田松陰に関する研究は、膨大な数に上る。吉田松陰歴史館の統計によると、吉田松陰に関する著作は、明治後半期に20冊、大正に25冊、昭和は敗戦までに190冊に達している。

    奈良本辰也(1951)の『吉田松陰』という著作では「門下から志士や元勲を輩出した結果からみて、彼を教育者が本職であったようにいう人もあるが、彼の本領は、決してそんなところにあったのではないであろう。彼は野に放てば虎である。不正があれば断じて許さず、不義が起れば断乎として戦う。教育者として静かに後進に学を講ずる性質の人ではない」と述べられている。

    徳富蘇峰の『吉田松陰』は「我等は吉田松陰先生を決して偶像視するものではない。我等が偶像視せんとするも、先生は遠慮会釈なく、自分の欠点を暴露け出して、これを公開せねば、安心出来ない程の正直漢であった。……先生は實に日本男児の真面目を具えていた。その第一は大義名分を明らかにしたることであった。その第二は自ら身を以てその理想に殉えたることであった。第三はその一切の動機は君国の為に存して、殆ど寸毫も自己の為めに為し、若しくは為さんとしたることがなかった。而して先生の特色は實に多血多情にして、最も人情の饒きことであった」と述べている。

    広瀬豊(1942)の『吉田松陰の研究』では「松陰の一生は教育に尽きる。明倫館の教育者!獄中の教育者!松下村塾の教育者!防長人の教育者!日本人の教育者!人類の教育者!」と述べられている。政治思想史の分野から、吉田松陰の「尊王攘夷」思想を研究する学者は鹿野政直と尾藤正英などである。

    中国国内でも、吉田松陰について研究した書籍と論文がある。例えば、郭連友(2007)の『吉田松陰与近代中国』は吉田松陰と中国の関係の角度から、梁啓超と吉田松陰、吉田松陰の人性観と孟子性善論などを中心に吉田を分析した。唐利国(2005)は『近代日本における吉田松陰像』という論文の中で井上哲次郎と関根悅郎の松陰論を取り上げ、近代日本の吉田松陰像の一端を明らかにすると述べている。馬洪林(1990)の『吉田松陰の「幽室文稿」と中国伝統文化』は、吉田松陰の『幽室文稿』中の中国伝統文化に関する表現を分析した。

    吉田松陰の教育思想に関する研究も枚挙にいとまがない。鄭航(2012)は『吉田松陰の教育思想研究』という論文の中で、吉田松陰の教育思想を考察すると、吉田の教育理念は中国儒家の伝統教育思想とある共通点があると述べている。荒川紘(2003)は『教育者・吉田松陰と儒教精神』という論文で「松陰の思想の基層には幼年時代から馴凛み、松陰の血肉となっていた儒教の精神、それに尊王壊夷の心が根づいていた。塾生たちを学に喚起させ、社会の変革に立ち上がらせた松陰の教育の原動力もそこから生まれた」という観点を示している。

    溝口貞彦(1995)は『松陰の教育思想』の中で、「松陰は、前半生の明倫館時代および後半生の松下村塾期において、系統的ではなく、いささか断片的にではあるが、教育の理念と実際の教育内容・方法および教育制度等について、すなわち教育のほぼ全面にわたって論じている。そこに天性の教育者というにふさわしい、教育に関する深い洞察がみられる」と述べられている。

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