まとめて言うと、現代日本語の動詞はアスペクトのカテゴリーをもち、完成相と継続相に対立する。そして、この両形式は、さらにテンスによって非過去形と過去形に分かれる。このことによって、動詞は、アスペクト・テンスの観点方、次の四つの語形をもつことになる。
アスペクト・テンス体系
アスペクト
完成相 継続相
テンス 非過去形 ル形 テイル形
過去形 タ形 テイタ形
アスペクトもテンスも時間に関係した文法的カテゴリーであるが、アスペクトは動詞の表す運動が、基準となる時間とどのようにかかわるかについてのカテゴリーであり、テンスは動詞の表す運動が、時間軸上のどこに位置するか(基本的には、発話時とどうかかわっているか)にかかわるカテゴリーである。
1.2「シテイル」についての研究
「シテイル」は「スル」、「シタ」、「シテイタ」と一緒、アスペクト・テンス体系による4つの語形の一つである。
金田一春彦(1950)「国語動詞の一分類」は、「テイル」がつくかどうか、つくとしたらどのような意になるかを論じ、動詞を状態動詞、継続動詞、瞬間動詞、第4種の動詞の4つに分類することを提唱した。継続動詞は「シテイル」の形で動作の進行中を表す。瞬間動詞は「シテイル」の形で動作や変化の結果の持続を表す。第4種の動詞は文末の述語として、「シテイル」の形しか使わない、物事の現在の状態を表す。状態動詞は例えばある、いる、いらっしゃるなど時間的概念を超え、物事の状態と存在を表す動詞で、「シテイル」の形のない動詞である。
この「国語動詞の一分類」における、動詞の4分類を批判しつつ、奥田靖雄(1977)「アスペクトの研究をめぐって――金田一的段階――」では、シテイルが、それ自体においてではなく、包括的体系の部分としてのみその価値を解明できると述べている。奥田は、現代日本語のアスペクト体系を、スル(完成相)とシテイル(継続相)の、互いに他をまってはじめて価値を持つ相補的対立関係の中に確認した。動詞は、まず、アスペクトという文法的対立の有無によって2分類され、つまり、継続動詞と瞬間動詞はアスペクト体系のある動詞で、状態動詞と第4種の動詞はアスペクト体系のない動詞であると述べている。また奥田靖雄は継続動詞と瞬間動詞がアスペクト体系のある動詞で、状態動詞と第4種の動詞がアスペクト体系のない動詞であると述べている。つまり、アスペクト体系のある動詞の「テイル」形で、継続動詞と瞬間動詞の継続相で動作の進行中と変化結果の持続を表す。それを動的述語の「テイル」形の意とする。アスペクト体系のない動詞の「テイル」形で、物事の状態的な性質を表す。
そして、高橋太郎(2003)の説から、以下のことが分る。継続相の持つ基本的なアスペクト的意は、動詞の指し示す運動(動作または変化)を、持続過程(をなす局面)の中にある姿で差し出すことである。継続相の基本的な用法は持続過程の中にある姿を表し、中には動作の持続と変化結果の持続がある。その他に、繰り返し過程の中にある姿、ある局面の完成後に次の局面の中にある姿と、以前の動作や出来事を経験・記録として表す姿があると述べている。